第T部 生涯学習推進基本構想の見直しにあたって T 見直しの趣旨  本市では,生涯学習を推進するため,平成5年(1993)3月に「芦屋市生涯学習推進基本構想」(以下,「基本構想」と略す)を策定し,生涯学習社会の実現に努めてきました。   しかし,社会の状況は大きく変化し,特に本市は平成7年(1995)1月,阪神・淡路大震災により,壊滅的な被害を受けました。そのため,全市を挙げて早期復興を目指し,平成7年(1995)7月には「21世紀を展望した,誇りと愛着を感じる国際文化住宅都市」を創出するため,「芦屋市震災復興計画」を策定し,復興に向けた各種事業を推進してきました。  また,平成12年(2000)12月には第3次芦屋市総合計画を策定し,本市の将来像として「知性と気品に輝く活力ある国際文化住宅都市」を掲げ,まちづくりの目標として「活気あふれる豊かな生活環境づくり」,「健やかでぬくもりのある福祉社会づくり」,「人と文化を育てるまちづくり」,「快適でうるおいのある都市づくり」,「市民と協働してつくる自立した行政基盤づくり」をまちづくりの目標として示し,現在,様々な施策を展開しています。  一方,国においては,少子高齢化,情報化や国際化など,教育を取り巻く環境が大きく変化したことから,これまでの教育基本法に掲げられてきた普遍的な理念は大切にしつつ,平成18年(2006)12月に教育基本法を改正し,「国民一人一人が,自己の人格を磨き,豊かな人生を送ることができるよう,その生涯にわたって,あらゆる機会に,あらゆる場所において学習することができ,その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない。」と生涯学習の理念が新たに設けられ,教育の目標の中で「幅広い知識と教養を身につけることや個人の能力を伸ばし,創造力を培うこと」が掲げられています。  「人づくり」と「まちづくり」は相関しています。生涯学習を通しての「人づくり」を推進することにより,本市の将来像がより鮮明なものになってくると考え,平成5年の「基本構想」に謳われた「生涯学習オアシス都市」を新しい視点のもとに見直し,市民の皆さまに目標をより理解していただきやすいように「日常をより豊かにするために」という副題を掲げ,「第2次芦屋市生涯学習推進基本構想」を策定しました。 1. 基本構想見直しの背景 (1)生涯学習を取り巻く国の動向    平成18年(2006)12月には時代の変化に対応すべく,約60年ぶりに教育基本法が改正され,新たに「生涯学習の理念」が明記されたことをはじめ,「教育の目標」,「家庭教育」,「社会教育」,「学校,家庭及び地域住民等の連携協力」等,学校教育のみならず,生涯学習・社会教育関係等法規の整備がなされました。  これを受け,国の中央教育審議会では,生涯にわたってあらゆる機会にあらゆる場所において学習することができ,その成果を生かすことができる「生涯学習社会」の実現を目指し,「新しい時代を切り拓く生涯学習の振興方策について〜知の循環型社会の構築を目指して〜」と題する答申が出されました。この答申では,国民の学習活動の促進や地域社会の教育力向上等のための生涯学習の振興方策についての提言がされています。この答申を受け,「生涯学習の理念」の実現に向けた更なる取り組みが求められています。 (2)生涯学習への期待    これまでの生涯学習は,所得水準の向上,自由時間の増大,高齢化の進行などを背景に,自己実現や生きがいなどの人間的価値を追求することを目的に,いつでも,どこでも,だれでも自由に選択できる多様な学習機会を提供することに努めてきました。  しかしながら,国際化,情報化,科学技術の急速な進展のほか,少子高齢化社会の進展などにより,人々の価値観も多様化し,市民の学習に対する意識や活動はより広範・多岐にわたるものとなってきています。  また,地域では,共同意識が薄れ,まちの安全,子育て,高齢社会,外国人との共生,環境問題など,大きな課題を抱えており,こうした課題の解決に,生涯学習が期待されています。これは,学習の成果として地域社会に活かされることで,学習が息づき,まちづくりにつながるからです。そして,一人ひとりの学習を地域社会の発展に活かす仕組みをつくることが必要とされています。 2. 震災後の生涯学習観    本市は,古来より緑豊かな自然環境に恵まれ,明治末期から鉄道や道路が整備され,交通の便がよくなるとともに,良好な居住環境を有した住宅地として発展してきました。本市に,甚大な被害をもたらした平成7年(1995)の阪神・淡路大震災は,長年にわたって築き上げてきた都市基盤に壊滅的な被害をもたらし,多くの尊い命を奪いました。  しかし,その中にあって阪神・淡路大震災を契機にボランティア活動が繰り広げられるなど市民の主体的な参画・主導による地域づくりの機運が高まり,課題学習に災害への備え,減災のための学習や災害文化(災害への社会としての対応に関して「自助・共助・公助」のあり方を平素から問いかけ,互いに最も効果的な方法を見出していく文化を形成していくという兵庫県の考え方。)の形成といったことが被災市の責務となっています。  また,生涯学習にとって,学校の役割も改めて明らかになりました。以前から,生涯学習や学校週5日制の観点から「開かれた学校」が主張されてきました。学校は,生きがいを持って安心して生活を送れるコミュニティづくりの拠点となり,災害時には応急的な避難場所となるなど,地域の中で期待され,果たすべき役割は大きくなっています。 3. 家庭や地域の教育力の低下  近年の都市化や核家族化,少子化,地縁的なつながりの希薄化など,家庭を取り巻く環境の変化の中で,家庭の教育力の低下が指摘される中で,児童相談所における児童虐待相談処理件数が急増するなど,児童虐待問題も深刻化してきています。  また,近年の度重なる青少年の凶悪犯罪や,いじめ,不登校など,青少年をめぐる様々な問題は憂慮すべき状況です。こうした状況の背景として家庭の教育力の低下とともに,青少年の異年齢の子どもや異世代の人との交流の減少などによる地域の教育力の低下があると指摘されています。さらにグローバル化による産業の空洞化や少子高齢化の進展などにより,地域社会の活力の低下が問題となっています。家庭教育は子どもの倫理観や社会的マナー,自制・自立心などを育成するうえで大変重要であり,地域社会も子どもを支えていく大きな役割があります。 4. 少子高齢化の進行  わが国の平成16年(2004)の合計特殊出生率は,過去最低の1.29となり,平成19年(2007)には1.34と幾分か回復したものの,今後も少子化が進行すると予想されています。また,内閣府の平成20年版「高齢社会白書」では,平成27年(2015)には高齢化率が26%となり,かつて経験したことのない「超高齢社会(全人口に占める65歳以上人口の割合が7%を超えると高齢化社会,14%を超えると高齢社会,21%を超えると超高齢社会といわれている。)」が到来すると見込まれています。  このような急激な少子高齢化による人口構成の変化と人口の減少は,年金や医療,社会保障などをはじめ社会全体に深刻な影響を与えることが懸念されています。少子高齢社会が抱える課題を理解し,ともに生きていくという視点を育むため,あらゆる世代に学習情報や機会を提供していくことが必要です。 5.労働環境の変化    わが国の経済は,バブル崩壊後の長期の低迷状態から脱却し,平成14年(2002)から息の長い景気回復を続けてきましたが,業種間や地域間で景況感にばらつきがあり,近年では,アメリカ発の金融破錠で世界中の経済に影響が出るなどグローバル且つ先行きの経済が見通しづらい状態となっています。そのような中,パートタイム労働者や派遣労働者といった非正規・不安定雇用が増大する一方で,正規雇用の伸びは鈍くなっているなど,雇用の多様化,労働者に対する企業の評価など,社会や企業のシステムが著しく変化しています。若者のフリーターやニートの増加,中高年の再雇用が問題となっており,求人数の減少や能力の蓄積の機会を十分に与えられないことによる若者の能力不足などを通じて,社会の競争力が低下することや社会不安につながっていくことが指摘されていることからも,勤労観や職業観の育成,職業能力の向上につながる学習支援の充実が求められています。 6.高度情報化の進展    IT改革と呼ばれる情報通信技術の飛躍的な発展は社会の広範な分野に大きな変革をもたらし,インターネットや携帯電話などにより,個人が気軽にどこにいても世界中とアクセスできる環境が整いつつあります。  生涯学習において,情報通信技術の飛躍的な発展は,社会全体に対して学習機会を拡大し,市民一人ひとりの理解力・創造力を高めていく可能性を秘めています。  しかし,利便性が高くなる反面,人間関係の希薄化,有害情報の氾濫,ネットワーク上の規範や規則の問題など,情報化の進展に伴う弊害への対処も重要な社会問題となっています。  今後の更なる情報通信技術の発展も視野に入れ,情報化に対応できる学習機会の提供が必要です。 7.国際化の進展    情報通信技術などの発達により,人・物・情報などグローバル化が進み,経済活動をはじめ多くの分野において国際化が急速に進展しています。企業だけでなく個人のレベルでも,世界を舞台とした活動が日常化しています。  こうしたことから,国際交流など国際化を視野に入れた取り組みがより一層重要となっています。本市においては,これまで姉妹都市との交流を中心として,国際交流,国際理解の活動を推進してきており,今後とも,市民の主体的な活動が活発化するような取り組みが求められています。   8.環境問題の顕在化    21世紀は「環境の世紀」であるといわれています。現代社会においては,人々の物質的な豊かさの向上が重要視され,生活の快適性,利便性を追求し続けた結果,交通公害,水質汚濁,ごみ問題などの身近な環境から,地球温暖化,オゾン層の破壊など,地球規模の環境にまで影響を及ぼしています。  このような環境問題に対し,ごみの減量や省エネルギー,地域の清掃活動,資源物回収などの環境保全活動は,日々の市民生活の中で広く実践されています。  また,身近にある豊かな自然を守る運動も行われるなど,市民の環境に対する意識は高まっています。今後とも環境問題の改善に向けた取り組みを行っていくとともに,市民が自然とふれあう機会の充実を図る必要があります。   U 基本構想の構成  基本構想では,生涯学習社会の実現に向けての課題を明らかにし,生涯学習社会を実現するための基本的な方策を示しています。  基本計画では,基本構想に掲げた目標の具現化を推進するため,市民一人ひとりの自己実現に向けた個の充実や社会変化への対応を図るとともに,まちづくりへの参画には,生涯学習への支援が必要不可欠であるという認識に立ち,生涯学習をしやすい学習環境を整えるための施策を掲げています。  また,基本構想に掲げられた基本的理念は,時を経ても大きく変わらず継続していくものであることから,特に期間の設定をせず,生涯学習を取り巻く環境が大きく変化した場合に随時見直しを行うこととします。 V 平成5年基本構想との関係  平成5年(1993)に生涯学習オアシス都市を目指して策定された「基本構想」では「生涯学習推進のための基本的考察」として,生涯学習の概念を歴史的,社会的,理念的に明らかにし,つづいて生涯学習の基盤整備にとって学習者重視の原則と基盤体系化という2つの原則を掲げています。  さらに,生涯学習の課題として,要求課題と必要課題の2つを区別し,両者を発達課題と生活課題の2つの課題から分析しています。こうした理論的考察は,今もなお生涯学習推進にとっての指針となるものです。  また,理論的考察に基づいて計画された,「芦屋らしさ」の形成と創出を目指す「まちづくりのための生涯学習」と「生涯学習のためのまちづくり」という考え方は,いわば「不易」の価値を持ち,今後も生涯学習推進のための理論的手がかりとなるものです。  しかし,「基本構想」策定以後,震災をはじめ,様々な状況の変化から,新しく解決すべき緊急な課題が生まれ,条件の制約のもとで従来の施策の見直しや重点化,また,優先順位付けも必要になりました。第2次基本構想は,新しい時代に対応し,「不易」な原則を踏まえつつも,社会的状況の変化に対応して策定したものです。 W 基本構想の位置付け  第2次芦屋市生涯学習推進基本構想は,総合計画の中の生涯学習社会の実現に向けた部門計画として策定し,他部門の個別計画の学習に関わる内容との整合性を図るものとします。 X 基本構想の策定体制 「基本構想」策定にあたっては,市民参加に配慮した「芦屋市生涯学習推進基本構想素案策定委員会」を設置し,計画に対する助言,提言を受け,「生涯学習推進会議幹事会」「生涯学習推進会議」を経て策定するものとします。また,市民意向調査などを実施し,市民のニーズを的確に捉えた計画を策定するものとします。 Y 基本構想の推進体制    「芦屋市生涯学習推進会議」,「芦屋市生涯学習推進会議幹事会」において,関係機関や関係各課との調整を図り,基本構想の実現を目指す施策を総合的に推進します。