02-03 特集 少しでも早く、少しでも多くの人を助けられるように 平成7年1月17日午前5時46分、淡路島北部の北緯34度36分、東経135度02分、深さ16キロメートルを震源とするマグニチュード7.3の地震「阪神・淡路大震災」は多くの被害をもたらしました。 震災当時、救助隊の副隊長として現場で救助活動を行っていた職員に30年前に経験した災害現場での活動や教訓などを取材しました。 問い合わせ 消防署☎32-2345 頬を伝う涙が止まりませんでした 自宅での就寝中、突然の地響きに飛び起きたのを覚えています。自宅に家族を残し、すぐさま職場に向かうと、消防庁舎は大勢の被災者でごったがえしている状況でした。参集した職員ですぐさま隊を編成し、出動した救助現場での記憶が今でも忘れられません。 現場に到着すると、倒壊した家屋から逃げ出したと思われる市民から「家族がまだ中に・・・。地震直後は、呼びかけへの反応があったが度重なる余震以降、声がしなくなった」と伝えられ、私は確認するため倒壊危険がある家屋内へ入っていきました。 倒壊した家屋の中で人の頭部を発見しましたが、家屋の柱に挟まれており、呼びかけるも応答がありません。脈や呼吸もなく、露出している皮膚は冷たくなっている状態でした。 一旦屋外に出た後、外で待っていた家族に、次の生存救出の可能性が高い現場へ行かなくてはいけないことを伝えると、「目の前の救助活動を放棄するのか」と胸に刺さる言葉を投げかけられました。立ち去る際には付近住民からも活動服を捕まれて静止され、自分の無力さと無念から頬を伝う涙が止まりませんでした。「すみません」と謝ることしかできない。 強く握った拳で太ももを叩きながら次の現場へ向かったことを今でも鮮明に覚えています。 今でもこの話をすると悔しかった気持ちが込み上げ目頭が熱くなります。 当時のこの気持ちを忘れず、日々の訓練を行う際には救助を求めている人の立場に立ち、家族の心情も考えて活動するようになりました。そして何より少しでも早く、少しでも多くの人を助けられるように震災を経験していない隊員たちにも伝えています。 芦屋市消防署 救助隊副隊長(震災当時) 阪神・淡路大震災という未曾有の災害を経験し、芦屋市消防本部では救助隊、消防隊、救急隊の強化を進め、30年の時が経ちました。また、緊急消防援助隊に部隊を登録し、芦屋市内で発生した災害のみならず、全国で発生した大災害に対して出動体制を構築し出動に備えています。 芦屋市消防本部で取り組んでいる、各部隊の強化や日々の訓練などの様子を紹介します。 救助隊 阪神・淡路大震災発生から翌年の平成8年、救助工作車Ⅲ型を導入し、救助資器材の充実強化と特別救助隊員の養成に取り組んでいます。 強化① CSR訓練 倒壊建物内からの要救助者を救出する活動を「CSR」といいます。 Confined(狭隘〈きょうあい〉)Space(空間)Rescue(救助活動)の略で、倒壊した建物からの救出を想定し、災害現場さながらの緊張感で訓練を行い強化しています。 倒壊建物の外部から資器材を使用して、要救助者が取り残されていないか捜索します。 ガレキ救助訓練施設の内部はとても狭い空間で立つことができません。 要救助者は低体温症の可能性があるため、ブルーシートに毛布を張り付けたもので包み、救出します。 強化② 土砂災害対応訓練 地震や豪雨によってもたらされる土砂災害。土砂に埋没した要救助者の救出を想定し、土留めを使って迅速かつ安全な救出訓練を行い強化しています。 実際の現場に近づけるため、土を深く掘って人形を埋めます。 埋没した要救助者の気道を確保するため、手で首から胸のあたりまで掘ります。 土砂が流れ込まないよう、要救助者を囲んで土留め板を立てます。 人形を引き上げ救助!安全・確実・迅速に救出できるよう取り組んでいます。 訓練から実際の現場を想定し、要救助者へ声かけを行います。 土留め板をハンマーで固定しながら土砂を掘り進めます。 消防隊 木造建物やマンションだけでなく、商業施設・高齢者施設など様々な建物に対する戦火戦術を構築し、消防隊の強化に取り組んでいます。 強化① 長距離送水街区火災対応訓練 地震発生時に消火栓が使用できない場合、防火水槽・川・池の水を使用した消火活動を行います。近くの水利の確保が困難な場合を想定し、街中で約800mの距離をホース延長し小隊間で連携を図って訓練を行い強化しています。 遠くの水利から取水しホースを延長します。 無線等を活用し部隊の統制を図ります。 約800m先の火点に向けて放水開始。 強化② 警防練成会 消火活動の迅速さや正確さを磨くために行い、各署内で消火活動の工夫や研究を進め、競い合いながら消防隊の強化に取り組んでいます。 木造2階建一般住宅の2階から出火したことを想定し4人1チームで消火活動を行います。4チーム合同の大会の模様をご紹介。 30秒で防火服着装 消防車を出動し車内で呼吸器(10kg)を背負う 移動は全力疾走。後ろの審査員も全力です。 呼吸器を着装し屋内に進入し訓練終了 3連はしご(9m)を使用し2階へ転戦。呼吸器・防火服(約20kg)の重さに耐えながら登ります。 2階に進入するため、はしごを持ち全力疾走 水圧に耐えながら的をめがけて放水 救急隊 地震ではけがの処置だけでなく、急病人への対応も必要になります。集団災害時に行うトリアージや医療機関と連携した研修・訓練を行い、隊員の育成と強化を図り、市民に対する心肺蘇生法等の普及活動に取り組んでいます。 強化① 救急救命士制度と処置拡大 救急の専門知識をもった救急救命士を養成し、高規格救急車を運用しています。気管挿管や薬剤投与といった特定行為を行える隊員を増やし、救命率の向上に取り組んでいます。 強化② 普通救命講習会 普通救命講習会では、市民による救命率向上を目的として心肺蘇生法やAEDの取扱いを指導し、普及活動を行っています。 緊急消防援助隊 緊急消防援助隊(通称:緊援隊)は、阪神・淡路大震災を機に発足された制度で、全国的な消防応援部隊のことをいいます。 被災地の消防力だけでは対応困難な大規模・特殊な災害が発災した際に、都道府県単位の部隊が編成され、被災地で現場活動を行います。芦屋市消防本部では令和6年1月1日に発生した能登半島地震の被災地に救急隊を派遣し、緊急消防援助隊兵庫県大隊として現場活動を行いました。 30年後の未来に向けて 自然災害を我々が「0(ゼロ)」にすることはできない。 しかし、災害により亡くなっていく命を「0(ゼロ)」にするため、消防士は存在する。 一人でも多く、一秒でも早く救出するために、私たちは全力を尽くす。これからの30年、芦屋市の安心・安全を守り、市民が平和に暮らし続けられるよう、私たちは日々鍛錬を重ね、災害と向き合い続ける。