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更新日:2022年1月4日

「色や形で自由に表現 ありのままでいられる場づくり」

中山英子氏

アトリエ たいようのした
中山英子氏

保育園での出会い

ある保育園で出会った6歳の子は「どうせ」「無理」が口癖で自信がないお子さんでした。その保育園には造形の時間があったので、画用紙を前にすると固まってしまうその子を別室に連れていき、画用紙を塗りつぶそうと提案すると、多くの色を使いながらも真っ黒な画面が出来上がりました。その次の時間も別室に誘うと「ひとりで大丈夫」と喜々として自分から入り、30分ほど経ったころ、「先生、みて!」とうっすら汗をかきながら持ってきた絵は前回とは全く違うものでした。「教会のステンドグラスみたいできれい!宝石みたいにも見える!」と見て感じたまま伝えると、顔を真っ赤にして笑っていました。その後は自信がついたようで、苦手だった跳び箱や縄跳びに挑戦したり、友だちと過ごすことも増え、表情も明るくなって声に張りも出るようになりました。

保護者もその変わり様にとても驚いていましたが、その子がもともと持っていた「やりたい」「やってみたい」気持ちが色を使って表現することで解放されたのだと思います。柔らかいクレパスを重ねると色の中にはない、自分の気持ちに合った色や厚みを作ることができます。思いを出し切った後に塗られた色は、その子がこれからやりたいことや、たくさんの可能性のようにも見えました。

まわりを気にせず、だれかと比べられない、だれかと比べてしまうこともない、ぐちゃぐちゃでも真っ黒でも否定されなかった安心できる環境だったことも大きいと思います。

言葉にできない思いを色や形で表現すれば、それがその子の「言葉」です。その言葉、その表現を肯定することがその子の自信につながっていくのを目の当たりにしました。

こうした表現を、園や学校以外でもできる場所があったらちょっと楽になる子がいるかもしれない、まわりからの干渉や制限がない中で表現できる場をつくりたい、と思ったことがアトリエを始めたきっかけです。

苦手意識のある子が見るだけでもできて、楽しそうと思ったら参加できるハードルの低さと、子どもも大人も自然と集まる最適な場所は野外だと思い、2015年5月から芦屋公園で始めました。

足に絵の具を塗る様子

思うがままに今を楽しむ

子どもたちが表現できる場として始めたアトリエですが、大人の参加ももちろんOKです。ここ数年では、大人たちこそ、評価も否定もされない場所が必要だと強く思うようになりました。

子どもたちの絵や活動している様子を見ていると、私たち大人が「こうでなければならない」と思い込んでいることの多さに気づきます。写実的に描いてある、何が描かれているかだれがみてもわかる絵が上手?そもそも上手い下手って何だろう。余白があるともったいない?幼いからぐちゃぐちゃにするの?

絵に限らず、思い込みを抱えていることによって、本当にしたいこと、好きなことがわからなくなったり、今本当に感じていることを誤魔化してしまうことがあるように思います。そしてそのような思いを子どもたちにもさせていないだろうかと思うこともあります。

多くの子どもは完成させることよりも、目の前の、今この瞬間を楽しんでいます。失敗しないように一歩先を考えることは仕事上では大切ですが、大人たちこそ、今この瞬間を、思うまま手を動かして表現することを楽しんでもらえたらいいなと思います。作ってみた色が好きじゃない、気持ちが変わって違う感じにしたくなった、と思ったらやり直したらいいんです。

これまで大人から言われた課題をみんなと同じようにやってきたことで、ひとつの答えを求めたり、明確な何かでないと不安になる私たちは、同じであることに共感や安心を覚えて、違うことに恐れや不安を持ってしまっています。

1枚として同じ絵がないように、真似をしても全く同じものが作れないように、同じ人間だってひとりもいない、絵を見て感じたこともそれぞれ違うのだ、ということをアトリエにいるとそれが当たり前であることを強く感じます。描かれた絵は全て「そこにあっていい」と肯定され、どれかを排除したり、否定していいものなんてひとつもありません。アトリエで過ごすことが「こうでなければならない」思い込みを崩す、疑問に思う小さなきっかけになればうれしく思います。

みんなの作品 泡の手

安心できる空間づくり

2020年の7月からは、屋内でいろいろな素材を使って造形あそびができる「アトリエハロー!」も始めました。素材の中には、カメラ屋さんや家具屋さん等から廃材を提供していただいたものもあります。ふだんは見たことがない、触ったこともない、捨てられるはずだったそれらが表現する時の刺激になったり、本物に触れることで、モノや人、お店や仕事、環境に興味関心をもって世界が広がっていったらいいなと思っています。

「無になれる時間はこれまでほぼなかった。何も考えず絵の具や粘土に触れていると気持ちいいです」「絵は苦手と思っていたけど、子どもたちがのびのびと描いているのをみて、自分もやりたくなった」など大人の心が動いた瞬間を聞いたときはとてもうれしくなります。

「アトリエが子どもにとって安全基地になっている」「自信がなくなっていたけどやりたいことができて、それを認めてくれたから、これでいいんだと思えた」と、子どもたちの心の安定にもつながっていることを知ると、安心できる空間を作ることができていたんだと思えてホッとします。

アトリエハロー!の外観 アトリエでの様子

自分らしくいられるように

絵の具の色、画用紙の大きさ、どの画材・素材を使うか、落ち着く場所はどこか。一つひとつは小さなことですが、大人に誘導されたり、決められるのではなく、「自分で選んで決める」ことは大切です。描いた絵、作品を飾ることも必ず本人に確認を取ってからにしています。まだ多くの言葉をもたない小さな人たちも、私と、飾る場所をじっとみて頷いたり「いい」と一言言ってくれます。首を横に振ったり「飾らない」と言う子ももちろんいます。自分で考えて決めて行動することを“待つ”、本人に確認を取ることは、その人自身を、その人の意思を尊重しています。

自分の気持ちを尊重してもらえた、表現を大事に扱ってもらえたという実感から自信につながり、自分自身のことを大切にできるようになって、それからまわりの人や環境、社会を大切に思う気持ちを持てるのだと思っています。

私もまだまだ “思い込み”を持っていますが、それをほぐしてくれたり、自分の軸を確認できる場所がアトリエです。どんな表現も「そこにあっていい」という喜びを共有しながら、子どもも大人も心を解放できる場所として在り続けていきたいです。

赤い絵 砂の絵

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