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更新日:2010年2月1日
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芦屋市では、これまで「芦屋国際文化住宅都市建設法(昭和26年 / 1951年)」に基づいて、国際文化住宅都市にふさわしい魅力あるまちづくりが進められてきました。しかし、社会・経済環境の変化や、阪神・淡路大震災による甚大な被害と財政負担など、さまざまな試練を背景に、芦屋市の文化行政は大きな課題に向き合っています。こうした状況の中で芦屋市固有の文化資源をまちづくりのなかで戦略的に活かし育てていく、芦屋のルネッサンスともいうべき、都市政策としての新たな文化行政の展開が求められています。
そこで、市民、民間団体、行政等が相互に連携し、芦屋市ならではの都市の魅力と暮らしの質を持続的に高めていくことのできる、今後の文化行政のあり方について、基本的な考え方や推進方策に関する提言を行なうため、芦屋市文化行政推進懇話会を設置し平成18年(2006年)5月から11回にわたり検討を重ねてきました。
なお、本懇話会での検討は網羅的なものではなく、現在文化行政が置かれている状況を俯瞰したうえでその役割を再構築するにあたって、重点的に取り組むべき課題を中心に議論を行なったものです。このたび、検討の要旨を提言としてとりまとめましたので次のとおり報告します。
平成20年3月
芦屋市文化行政推進懇話会
六甲の山並みと大阪湾、山から海へと流れる芦屋川・宮川、恵まれた自然環境の中に育まれた豊かな住環境や景観が、芦屋文化の基盤となっています。芦屋ならではの風土の中から、国際性豊かな創造者たちも数多く生まれました。また、成熟した大人のファションセンスや、美しい言葉づかいや暮らしのマナーや楽しみ方をはじめ、先人たちが培ってきた洗練されたライフスタイルの数々の魅力は、決して短時間では創り出せない文化資源としての高度な価値を持っています。
しかし、こうした文化資源の存在や重要性について、芦屋市民が十分にその価値を認識しているとはいいにくい状況があります。50年後、100年後を意識して、芦屋のアイデンティティー、固有の価値を紡ぎ出していく基盤となる、自然環境や海から山へと続く街並み景観を守ること。また、先人たちが生み出した有形無形の資源の価値を広く市民に伝え、新たな創造を誘発する学びや発表や交流の場を設け、先端性、創造性、国際性を発展的に継承していくこと。こうした長期的な視野にたった文化の発展的継承こそ、芦屋文化の未来のために必要です。
また、芦屋固有の文化を創造し評価していくには市民の高い意識と主体的な行動が欠かせません。都市政策としての文化行政は、市民の参画抜きに推進できないことも認識しておかなければなりません。
芦屋の都市固有の価値を持続的に高めていくことによって、成熟した生活文化の担い手としての意識や負担力のある市民や事業者を増やすことが可能になります。未来への投資事業として文化政策を行なうならば、将来の経済誘発効果は十分見込めると考えられます。逆に、文化への投資が滞れば、都市の価値が下がり、経済的な活力も低下していく悪循環が始まってしまいます。
芦屋には、衣食住全般にわたって、いまなお先人たちが培ってきた洗練された知識や感性が息づいています。それは、芦屋だからこそ可能なライフスタイルの経験価値を経済活動と両輪で育んでいく、都市や生活に根ざした新たな産業創出の資源として捉えることができます。
また、文化には日常型の生活文化と、非日常型の芸術文化・学術文化・宗教文化などがあります。文化行政が主な対象とするのは、生活文化と、芸術文化・学術文化ですが、生活文化の質を高めていくには、芸術文化・学術文化への投資が不可欠です。これを怠ると生活文化は衰退の道をたどります。21世紀にふさわしい生活文化を創造する都市へと、芦屋のブランド価値を持続的に高めていくには、芸術
文化・学術文化への多様な投資の仕組みをつくりあげることも不可欠です。
芦屋のアイデンティティーに根ざし、都市としてのブランド価値を持続的に高める、都市政策としての文化行政への転換を推進していくためには、政策の重点を明確にした戦略的な展開が求められます。前提となる考え方の議論から、文化行政の分野として明らかに導き出されたのは、芦屋の都市固有の価値を高めていくための都市文化政策と、担い手となる市民一人ひとりの主体的な創造性を引き出す市民文化政策の二つの柱です。
(1)自然環境の保全と良質な景観の形成
(2)文化資源ネットワークとアクセスの改善
(3)芦屋固有の文化資源を活かした産業創出
(1)人的資源の活用・育成の仕掛け
(2)市民主体の事業を育む仕組みと支援
総合的な都市文化政策を掲げ、都市文化の担い手としての主体的な市民文化を育んでいくには、そのための文化行政の推進システムを築いていく必要があります。芦屋市の文化行政が置かれている現状をふまえ、新たなシステムへの転換を図っていく際に鍵となる項目を挙げ、それぞれについての基本的な考え方を示します。
指定管理者制度の導入によって、公の施設の運営を民間事業者をはじめとする指定管理者に委ねる運営方式が広がっていますが、一定の政策を背景に社会開発の使命を負う社会教育施設は、単純に運営を競争原理に委ねることでサービスが向上するものではありません。とりわけ、無料で図書を貸し出し、市民と資料を丁寧につなぐ司書の存在が不可欠の図書館や、地域課題を解決する人材を育てるべき公民館の場合、効率性を重視する指定管理では事業の質をある程度犠牲にせざるを得ない恐れがあり、慎重な検討が必要であると考えます。
また、美術博物館及び市民会館については、芦屋固有の文化、アイデンティティーに根ざした、文化政策の理念を理解し、有効な事業を企画立案する能力がある事業者が望ましいと考えます。全国規模でイベント事業や施設管理を行なう事業者には、地域との丁寧な連携をはじめとする、きめ細かな配慮が期待できない恐れもありますので、経済性、効率性のみを基準とするのではなく、施設の目的、使命を
軸としたうえで、総合的な判断を行なう必要があると考えます。
都市のアイデンティティーやブランド価値の持続的な向上のためには、首長部局所管の土木、建設事業や都市計画及び文化の視点からの行政改革を含む総合的な文化政策の調整、企画・推進機能を担う部局が求められます。
一方、社会教育法上の図書館や公民館などの拠点は、教育委員会が所管することによって政策効果が担保されると考えます。また、美術博物館や市民会館は、性急に部局を移すのではなく、都市政策における各施設の役割が明確に位置付けられた後に、ふさわしい部局を選ぶことが妥当と考えます。
首長部局と教育委員会の有効な役割分担と連携によって、都市政策としての文化行政が推進されていくことが望まれます。
評価には3つの種類があります。一つはコストの評価でいかに無駄なく低コストであるかを問います。二つめがパフォーマンス評価(アウトップット評価)で、一定のコストでどちらが生産性が高かったかという評価です。文化政策の評価で最も重要なのは三つめのアウトカム評価です。その結果、芦屋はどう変わったかという成果を問うものです。アウトカム評価をするためには、明確な評価軸が必要となりますし、性急に成果を求めすぎない中長期的な視点も重要となります。施策や事業に対する評価の物差しをどこに置くかについては、施策や事業の企画・立案段階から市民参加で決めていくことが必要です。
また、政策の検討や施策や事業の決定、推進、評価のために、公募市民、事業者、文化団体・アーティスト、学識者等で構成する、審議会や協議会のような第三者機関を設けることによって、市民のコンセンサスの形成とオープンで柔軟な協働による政策展開が可能になります。
都市政策として文化行政を推進していくためには政策立案・実施・評価にあたって、一貫してしっかりとした拠り所となる条例の存在が欠かせません。
政策の理念や行政上の位置付けが明確でなければ、各文化施設の運営方針も定まらず、結果として市民の文化創造の機会をも喪失してしまいます。多様な行政分野を文化を軸として横断的に貫いていく、都市政策としての役割を発揮していくためにも、文化基本条例の制定が必要です。
懇話会の過程では、芦屋の文化を象徴する数々の魅力的なアイデアをはじめ多くの意見がだされました。今回の提言ではその詳細まではふれず、それぞれのアイデアや意見に共通する基本的な考え方と重点的に取り組むべき課題に絞り込んだ記述を行なっています。まず、具体的な施策や事業を推進していくにあたって、力強い指針となる芦屋市における都市政策としての文化行政の考え方を明確にすることが第一の使命と考えたからです。懇話会の創造的な議論の産物として、提言に込めた思いをストレートに伝え共感の輪を広げていくための、キャッチフレーズとシンボルマークの提案も生みだされました。
国際文化住宅都市・芦屋ルネッサンスは、山の緑と青い海を骨格として、時代の風を受け止め、不断の創造に挑む市民のプライドが生み出していくものです。キャッチフレーズとシンボルマークはその象徴です。この提言が、芦屋の真価を次世代に届けるとともに、時代の変化に応じ創造的に更新されていくことによって、真に持続的な指針となっていくことを願ってやみません。
キャッチフレーズ
シンボルマーク
シンボルマークに込められた意味
緑深い六甲山と前面に広がる青い海に抱かれた「美しいまち芦屋」。洗練された町並みと生き生きとした人々の暮らし。常に時代の風を受け止め創造的に生きる芦屋市民と芦屋の街をイメージしています。文化行政が推進されて行く様々なシーンで、文化への取り組みが楽しいという印象の下、このシンボルマークが活用されることが望まれます。
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