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更新日:2022年7月25日

ものづくりから笑顔を「つくる」

木山典子氏

STEP by STEP
木山典子氏

建築現場での気づき

私は「左官」という建物の壁や床などを、鏝(こて)という道具を使って土や漆喰、モルタルを塗る仕事をしています。建築関係の仕事に就いたのは、大学で建築を学び、卒業後、古民家移築プロジェクトで建物が建つプロセスに携わったことがきっかけです。仲間と力を合わせて建物をつくり上げる喜びや楽しさ、職人の心意気や技に触れるという貴重な経験から左官の世界に踏み込みました。

でも、仕事として実際の建築現場に入ってみたら、想像とは違っていて大きな建物の現場が多く、体力的にとてもキツイ状況でした。仕事がとてもキツイこともあり、体を壊してしまったりもしましたが、建築現場では、つくることの喜びを感じたり、優しく声をかけてくれる人もたくさんいました。

そして何よりいろんな職種のプロがぞれぞれの技で協力し合って建物を完成させるという、キツイだけじゃない良いところがいっぱいあることに、仕事を通じて気づくことができました。

人との繋がりから生まれるもの

ふとしたとき、定時制高校で務める知り合いから声がかかり、高校生に左官技術や建築現場のこと、社会での仕事について伝える機会をいただくことができました。高校生たちはとても真剣に授業を聞いてくれて、一緒に現場仕事のことや将来について考えたり、意見を出し合うことができました。ふだん、左官の作業現場では、施主やお客さんと触れ合う機会はほとんどありませんが、高校生の話を聞く姿勢や表情、言葉を通じて、自分のやりたいことが少し見えたような気がします。「頑張ろう!」ってパワーをもらえたんです。人の役に立つことがとても嬉しかったし、何より職人の仕事や学生時代に大切にしてほしいことなどを自分の言葉で伝えることができた経験を通して、もっと色んな人に自分の経験を伝えたいと思うようになりました。

このことがきっかけで、東灘の児童館で光る泥だんご教室やあしや市民活動センターでの左官教室など、子ども達や大人の方にも左官を知ってもらう場づくりにもチャレンジすることになりました。

高校での授業

左官の楽しさ

光る泥だんご教室を開いた時には、中学校時代の担任の先生に相談したところ、今の子ども達は手が汚れるのが嫌だから土を触りたくないという子が多いと聞いていましたが、実際の教室では、子ども達は指でさわったときの感触や土のにおいを五感で感じながら取り組んでいる様子がうかがえました。
小さい子も喜んで取り組んでいる様子や、つくる大変さがあっても諦めずに頑張っている様子、つくったあとの笑顔を見る中で、こういった機会をもっと増やすことで、職人の技をもっと身近に感じてもらえるようになるのではないかと考えるようになりました。


実は建築の現場は高齢化していて、職人の数が減っています。左官に興味のある人もない人も、左官に触れて職人とつながる機会や教えてもらう場をつくれば、興味をもってもらうきっかけとなって、建築現場の課題にも役立つことができるのでは・・・、と感じました。

光る泥団子 泥団子の素材

「STEP by STEP」の挑戦

その後、もっと色んな取組を進めて行くために“一歩ずつ前に進もう”という想いを込めて「STEP by STEP」を立ち上げました。
活動の初回はあしや市民活動センターで開いた左官教室です。
初回の左官教室では、お母さんと一緒に参加してくれた男の子が印象的でした。その男の子は、お母さんが「馴染めるかなぁ?」と心配されていたにもかかわらず、実際に土に触れると、どんどん積極的にみんなの輪の中に入って、土を練ったり壁を塗る作業を夢中になってやってくれました。
そして、教室の最後では、前に出て笑顔で堂々と作品を発表してくれました。皆で作業をすることで人の表情が変わり、いきいきとする様を見たとき、左官の力を改めて感じることができました。「また開いてほしい。」と言っていただけたことも、とても嬉しかったです。

それからは芦屋市内の障がい者施設で活動されている方からのお声がけや、あしや市民活動センターのワークショップで知り合った方からのお声がけで、二つの左官教室を開きました。
それぞれの左官教室に参加いただいた方には、一生懸命につくること、皆でつくると気持ちが一つになり、できたときの達成感や喜びを感じてもらえたと思います。活動の中で、職人仕事の大変さや楽しさ、技術の難しさなどを体験してもらうことで、ものづくりが持つ良い一面が垣間見えたのではないかと思っています。

リードあしやでのワークショップ 三和土の作業

これから目指したいこと

今後は、建築現場の環境を良くする取組を進めて行きたいと考えています。
建築現場で働く職人さんは常に腰や肩に痛みを持ち、痛くて眠れない人もいます。それ以外にも、女性ならではの問題として、着替え場所やトイレの不備など女性が働く上で必要となることについて、今は相談できる環境もありません。また、若い人がなかなか入ってこない現状もあります。
何より、私自身も体を壊してしまい、何カ月も休んで不安だった経験をしていますので、建築現場で働く皆がもっと安心して笑顔で元気に働ける場所にしていきたいと考えています。

また、身体の痛みで困っている人の役に立ちたいという思いから、トレーナーの学校に通い、メディカルトレーナーの資格を取得しました。現場全体の安全作業のためにも、職人の健康へのサポートもできればと思っています。自分で企画したり、それによって皆が楽しんでくれたり喜んでくれることが、自分にとっても嬉しいことだと感じるようになりました。
こんな風になったのも、一度、現場から離れてみて、人とのつながりの中でいろんなことに挑戦できたことで、外から建築の現状を見ることができたのが大きいと思っています。

建築の現場は、私にとっても大切な場所です。しんどいだけでは続かないけれど、しんどかったことも私にはプラスになっています。だからこそもっと良くしたいし、もっと多様な人が関われる可能性があると感じています。色んな人たちが入ってきて、自由なアイデアを出し合っていけば、その中から思いもよらない何かが生まれると信じています。
左官の仕事や魅力をたくさんの人に知っていただき、暮らしの中のより身近な存在になるように。
女性も安心して働ける現場環境づくり、そして、ひとりひとりが笑顔で活躍できる職場づくりにつなぐことができれば・・・と思っています。

お問い合わせ

企画部市長公室市民参画・協働推進課協働推進係

電話番号:0797-38-2007

ファクス番号:0797-38-2004

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