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更新日:2014年12月5日

資料編【第1回研修会の記録(基調講演要旨)1】

第3章資料編

講師:関西学院大学社会学部牧里毎治教授

日時:平成17年10月23日(日曜日)芦屋市地域福祉市民会議にて

場所:市役所分庁舎大会議室

テーマ:地域福祉計画策定と地域福祉の課題

(1)市民参加型福祉社会における地域福祉イメージの構築

芦屋市の地域福祉計画策定が来年の4月からスタートします。その前に、市民の皆さんがまちをどんな風に思っているか、市民活動をどんな思いでやってらっしゃるか、市民会議で話し合って報告書にまとめていこうということですね。今日は市民会議の開催に先立って、皆さんに少しお話をさせていただきます。

「地域福祉」という言葉は、皆さんよく耳にされると思います。しかし、高齢者福祉、障がい者福祉、児童福祉というと分かりやすいですが、地域というと実体がよく分からないのではないでしょうか。

まず初めに、基本的な原則を考えてみましょう。レジュメには、市民参加型福祉社会における地域福祉のイメージを考える原則となる話を7つ挙げてみました。

1)「受ける福祉」と「創る福祉」…受益者と供益者という人権視点

社会福祉の50年を振り返ってみると、「受益者」という言葉はあるんですが、その反対語はないんです。サービス提供者とか事業者、あるいはボランティア活動をする人たちを表現する言葉がありません。そこで、作ってみたのが「益を提供する」人、「供益者」です。実は、私たち一人ひとりの住民は、サービスを受ける場合もあるけれども、提供する場合もあるわけです。実際に従事することはなくても、税金を納めたり、その税金で誰かにやってもらう形で提供するという側面もあります。実はそういう、受ける面と提供する面の2つの側面を持った存在が、私たち住民=生活者だということをまず押さえておきたいと思います。

地域福祉というのは、援助を受ける立場の人と提供する立場の人たちの関わりであるともいえます。実は私たちのライフサイクルを考えると、子どものときは親や大人たちに助けてもらいます。大人になれば、逆に援助する立場になり、また年老いて若い人のお世話になる。そう考えれば、誰もが受益者であり、供益者だということを忘れてはいけないと思います。これが地域福祉を考える、スタート地点です。

2)NPO、住民団体、ネットワーキングによる自己組織化

3)一元的な中央集権国家統制から多元的な地方分権市民社会づくり

4)提案型市民活動の促進と計画行政の推進…住民提案・住民投票

2つ目は、特に皆さんに期待したいポイントです。これまで残念ながら、サービスを受ける人と提供する人は、分かれてきたわけです。たとえば、障がいのあるかたや年老いたかた、生活が苦しい方かたちは、どこに助けを求めてきたでしょうか。それは行政や行政に雇われて専門的なサービスをする専門家です。サービス提供者と受ける人がぷっつり分かれた構造だったわけです。何かあると、役所に「ああしてほしい、こうしてほしい」と言ってきました。お金がある時は、「よっしゃ、よっしゃ」と行けたんです。お金がある時、右肩上がりの経済の時は、良かったんです。厚生省があんなに大きくなったのは、市民・国民皆のおかげです。「ああせい、こうせい」って言うと、「困ったな」とか言って財務省、昔なら大蔵省に駆け込むわけですよ。「こんなん言われてますねん。なんとかしてちょうだい」って。そうしてサービスがどんどん広がってきた。そして、世の中には高齢化だとか、それを拡大、後押ししていく大きな力があった。

ところが、今は違うでしょ。介護保険で不正が出たりしたでしょ。税金を使って悪いことをするやつがいるわけです。肥大化しすぎたんですね。肥大化しすぎて、チェックする機関がなくなってきた。監査というのも、なかなか難しいです。私たちは、行政とか専門家に信頼を寄せて、ただお金を払ってきた。でも、信頼を寄せている人が崩れてきたのです。中央集権的に物事を進めてきたわけですが、大きくなりすぎて、国民の目・市民の目のチェックが入らない。

地方分権の流れを受けて、福祉も地方自治体単位でやっていこうということに変わってきました。それは基本的には正しい方向です。ただ、今の分権は、裏づけ(財政)がないから大変なんです。市民である私たちがしっかり見届けないといけません。そういうことが、まず必要です。

「ああせい、こうせい」って言うだけでは、今は、お金がないからできません。人も減らさないといけない。サービスも減らす。増税もできない。こういう状況だから、私たち市民ができることをまずやりましょうということです。役所ばかりが無理してやると、不正が起きたりします。そうではなくて、私たちができることをやるというのが提案型のポイントです。もちろん、行政がやるべきことは、ちゃんとやってほしい。

「こうやったらできるじゃないか」「こうやってほしい」「私たちはこうやる」こういう姿が、これからの「供益者」のあり方ではないでしょうか。すべて行政任せでやるんじゃなくて「住民提案」、場合によっては「住民投票」をする。「こういう政策をやってほしい。みんなはどう思ってる?」と。なかなか住民投票とまでいかないでしょうけど、少なくとも、計画レベルでは提案はできるわけですね。

今日の市民会議のテーマは、そういう提案型市民になっていこうということ。そういうことを目指そうというのが、地域福祉計画の大きな柱となると思います。

5)情報公開と情報開示、監査システム、オンブズマン制度などの推進

6)セーフティネットの構築と予防的・福祉増進的インフォーマル・ネット

3つ目は、何を目標としているのか、です。一言で言うと地域福祉の目指すのは、「住民でありたい」「住民であり続けたい」「住民になりたい」ということを支援する活動、あるいはサービスです。

たとえば、例を1つ考えてみましょう。皆さん、介護が必要になったら、「特別養護老人ホームをつくってほしい」って言いますよね。いらないという人、いますか?自信を持って「いらない」と言える人はいないと思います。でも、そこには誰が入るんでしょう?どうですか?(会場から「親を入れたい」の声)ほら、自分じゃなくて、人を入れたいんでしょう。「お母さん、特別養護老人ホーム入ってね、老人病院入ってね」とか言って(笑)。そんなふうに邪魔にされて、誰がホームに行きますか?ホームに行くというのは結局、住民であることをやめることです。それは、辛いですよ。たとえば障がいを持ったお子さんのお母さんが、子どものためにいい訓練施設に通わせたい。電車やバスを乗り継いで連れて行くわけです。朝早く起きて出かけ、夕方帰ってくる。誰かに似ていませんか。そう、サラリーマンのお父さんがたです。神戸や大阪まで働きに行って、夜しか帰ってこない。たまの日曜は、「今日は休ませてくれ」って。住民であることを奪われているわけです。あるいは精神に障がいを持って苦しんでおられる方々。差別や偏見があって、お互いに関係を作れない。また、障がいを持っておられる方々が、変に見られたくない気持ちから、こっそり潜んでいる。これも住民になれない人の例でしょう。こういうことが、あちこちで見られますよね。そう考えると、障がい、高齢者、児童といっても、まず住民ありき。簡単だけど大変難しい課題です。こうしたことを追いかけるのが地域福祉なんです。
ちょっと抽象的な話になりましたが、具体的には、暮らしのセーフティネットを作っていくことです。これは、行政任せではできません。住民だけでもできない。一人ひとりの暮らしのネットワークをつくるためには、縦糸と横糸がいります。縦糸は、行政や専門機関などにきちんとつながること。医療が必要なら、ちゃんとお医者さんにつないでいく。心の問題なら、カウンセラーにつなぐ。あるいは、行政に段取りをお願いする。そういう面が縦糸。

横糸もいります。横糸とは住民としてのつながりです。放っておかないこと。「1人で悩んでないで一緒に考えましょう。私たちの問題として一緒に考えていきましょう」。

縦糸と横糸がなければ、暮らしのセーフティネットはできません。タペストリーと同じように、縦糸と横糸がバラバラのままでは単なる糸ですが、縦糸と横糸を編むことで、一人ひとりの暮らしが安定してくる。地域福祉は、こういうことを目指しています。

7)地域ベースの福祉ワークシェアリング(労働とボランティアの融合)

次は、それをどうやって実現するかです。今までの福祉は、とにかく行政責任、専門家の責任で「ちゃんとやってもらう」という考え方でした。お任せすることが中心だったんですが、でもいろいろ考えてみると、それだけでは十分回らない。
1つの例を挙げてみましょう。今、介護保険法が改定中ですね。介護保険というのは介護サービスの制度です。おばあちゃんが1人で暮らしていて足腰が弱いので、介護のためにヘルパーさんに来てもらう。このおばあちゃんが、犬を飼ってるとします。犬を散歩に連れていかないといけないんだけど、自分では行けない。でも、介護ヘルパーさんには散歩に行ってもらえない。お金があれば、「シルバー人材センターに頼もうかしら」なんて言えますが、どうしますか。ボランティアさんに行ってもらったらいいわけです。あるいは、近所の人に頼む。自分の犬を散歩させるついでに、隣の犬も一緒に行く。これも、住民だからできることです。他に、草むしりもあるかもしれない。私たちはヘルパーさんに任せたらそれで済んだと思うけど、そうじゃない。ヘルパーさんができないことはたくさんあるし、住民でやってあげた方がいいこともあります。
住民のボランティアは、タダだからいいという面もあります。たとえば、「おばあちゃん元気? 新聞たまってるよ。どうしたの?」と隣に声かけてもらう。これが声かけた人が芦屋市から、「お手当てもらってるらしい」となると、「何?お金でやってはったん?」となることもあります(笑)。タダやから気持ちいいわけで、「素敵な人やねえ」となる。同じようなことは、たくさんあります。
芦屋市全体でそういう取り組みができたら、みんな安心して芦屋に住めると思います。究極の目標は、認知症になっても安心して暮らせること(笑)。街中を徘徊していても、「危ない危ない。○○さんのお母さんが歩いてはったわよ」って連れてきてもらえたら、「お散歩に行っといでー」って安心して徘徊させることができますよね。
このように、行政がやらなきゃいけないこと、住民がやらなきゃいけないことがあるわけですね。こうした活動は、組織的に取り組まないと、なかなか体外的には見えません。そこに取り組むのが、地域福祉なんです。

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